【伊藤羊一さんINTERVIEW】「まずやってみる」からはじめるモチベーションの見つけ方。行動の習慣づくりと、大切な3つの”対話”とは?

スピーカープロフィール

伊藤羊一(いとうよういち)

アントレプレナーシップを抱き、世界をより良いものにするために活動する次世代リーダーを育成するスペシャリスト。2021年に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し学部長に就任。2023年6月にスタートアップスタジオ「Musashino Valley」をオープン。「次のステップ」に踏み出そうとするすべての人を支援する。また、Zアカデミア学長として次世代リーダー開発を行う。
東京大学経済学部卒。1990年日本興業銀行入行。2003年プラスに転じ、ジョインテックスカンパニーにて執行役員マーケティング本部長、ヴァイスプレジデントを歴任、経営と新規事業開発に携わったのち、2015年よりヤフー。代表作「1分で話せ」は60万部のベストセラーに。その他「1行書くだけ日記」「FREE,FLAT,FUN」「『僕たちのチーム』のつくりかた」など。

野口
伊藤さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
伊藤さん
よろしくお願いします。

野口
まずは、伊藤さんの高校時代について、教えていただけますか?
伊藤さん
高校時代の僕は、ぐれていましたね。

やる気のなかった高校時代

伊藤さん
中学1年生の頃からテニス部に入っていて、365日テニス漬けの日々を過ごしていました。大会でシードを受けるくらい実力があったんです。

伊藤さん
高校でもテニスを続けたのですが、僕の高校って人数の割にテニスコートの数が少なくて。なかなか練習ができなかったので、部活に所属しながら、地元のテニスクラブに通って活動していました。ただ途中から部活の方がだんだん疎かになっていって、一応部活には週2回練習に行かないといけないというルールがあったんですけど、「俺強いから、練習行かなくてもいいか」くらいに思って、練習をサボっていたんです。そしたらなんと、1年生の夏にテニス部をクビになっちゃったんですよ。
野口
クビですか!
伊藤さん
そうなんです。まさかクビになるとは思ってなくて、寝込むくらいショックを受けていたら、偶然同じタイミングで当時付き合っていた恋人にも振られちゃって。
その時の気持ちってまさに「人生詰んだわ〜」という感じでしたね。
それからというもの、何に対してもやる気が沸かなくなってしまって。部活もないし、勉強もしていなかったしで、何をやったらいいのかもわからないし、何かやりたいこともない、そんな高校生活を過ごしていましたね。

野口
そこからどう変化していかれたのか、すごく気になります。
伊藤さん
何かを楽しんでやっていた記憶もないですし、何をやるにしても本当に「面白くないな」という感じだったんで、高校3年生になって受験が迫ってきても、勉強にも全くやる気が起きなくて。結局「予定通り」といった感じで浪人になることが決まりましたね。

浪人生活時代

野口
浪人生活を経て、伊藤さんは東京大学経済学部に進学されているかと思うのですが、その浪人時代のお話をお伺いできますか?
伊藤さん
浪人生活がはじまった頃から、「浪人してからもこんな感じだと、人生ずっとこのままじゃないか」と考えるようになったんですよ。予備校に行っていたんですが、その時は他にやることもないからというのもありましたが、朝から晩まで勉強していましたね。
野口
それまでやる気のない高校生活を過ごしていたとおっしゃっていましたが、そんなにすぐに変われるものなんでしょうか?
伊藤さん
自分の中で、変わるタイミングを探していたんでしょうね。このタイミングで「変わろう」って高校時代から決めていたんだと思います。
浪人の時って、他に妨げられるものがないじゃないですか。だからちゃんと勉強に向き合ったんですね。そうしたら、勉強を体系的に学んでいく面白さを知ることができましたね。
野口
高校の時から、変わるきっかけを探されていたんですね。

大学時代

伊藤さん
結局浪人時代に受験した大学には全部合格することができて、次の年から大学生活が始まりました。でも、根本的にはやる気がないのは変わっていなかったんです。
なので自堕落な生活がまた始まりましたね。
野口
そうだったんですね。大学の授業はどうでしたか?
伊藤さん
授業も受けてなかったです。受けていたのは、体育と英語だけ。出席の確認があって代わりが効かなかったので受けていました。そんな調子で、4年間ずっと何もしていなかったので、今振り返ると「なんだったんだろう俺…」と後悔がありますね。

野口
そうだったんですね、とても意外です。
伊藤さん
だから、今大学で勉強を頑張っている学生をみると、「すごいな〜!!」「素晴らしいな〜!!」と思いますね。僕は大学生の頃、世の中を舐めていたんだと思います。
野口
「舐めていた」っていうのは具体的にいうとどのような気持ちだったのですか?
伊藤さん
「なんとかなるでしょ」って思ってました。1年間頑張ったら大学にも入れたし、将来もきっとどうにかなるでしょって。全体的にやる気がなくて、やりたいからではなくて「やることがないから」っていう理由で、ずっとゲームをしたりしていましたね。今の自分はそのころの反動もあるんだと思います。

野口
その当時は自分のことをどう思われていたのですか? 
伊藤さん
好きでも嫌いでもなかったです。「何もない」って感じでしたね。高校でやる気がなくなって、浪人をしていた1年間は頑張ったけれども、大学に入ってからまたやる気がなくなって。「そういう人間って好きじゃないな」と自分で思いながら、過ごしていました。
野口
そうだったんですね。大学生の間に就職活動はされたんですか?
伊藤さん
はい。ただ、どこに行きたいとか第一志望とかもなかったので、各業界の人気企業ランキングの上から順番に受けていく、みたいな受け方をしていました。そうしたら、奇跡的に日本興業銀行に採用されて。
野口
わあ、すごいです!!
伊藤さん
「えーーー!」と自分でもびっくりしましたね。その時って無気力なだけで、到底うまくいくとは思っていなかったんですね。だから就職活動もきっとダメだろうと思っていたんです。

日本興業銀行に入行

伊藤さん
でも、採用の決まった同期と集まってみると、体育会系のエリート集団みたいな、エネルギーで満ちている人ばかりで、いきなり嫌になっちゃったんです。
野口
その時はどのような気持ちだったのですか?
伊藤さん
そうですね、「劣等感」といった感じでした。160人同期がいて、入社してから半年間の研修があったのですが、それを終えた時に「4人だけ今のままだと配属させられない人がいる」と言われたうちの一人が僕でした。研修を終えたあと、鬼のような補講を週末に受けないといけなくなってましたね。
1年目から会社にも馴染めなくて。飲み会があっても途中で嫌になって逃げ出して、後日上司からすごく怒られたり、現実逃避のために夜な夜なゲームをしたりで。徐々にメンタルが下がっていって、あるときから会社にいけなくなっちゃったんです。
野口
そうだったんですね…今の伊藤さんをみていると想像できないです。
伊藤さん
でも、その時の自分がいるから今の自分があるという感じはしますね。
野口
そこから少しずつ復帰されていったんですか?
伊藤さん
はい。会社に行けなくなった当初は玄関を開けることもできなかったんですが、だんだん外には出られるようになって、やっとの思いで会社に行けるようになってからも、毎朝嘔吐してから出社して…といった状態が数ヶ月続いたんです。
そうした状態から抜け出すきっかけになったのは、不動産会社の案件でした。マンションディベロッパーの方が、僕に案件を依頼してくれて。その方の熱量のこもった話を聞いている中で「この仕事をしたい」と強く思ったんです。働く活力が自分の中から初めて芽生えた瞬間でした。1年後にそのマンションが出来上がった時、マンションから入居者の家族連れが笑顔で出てきた瞬間に身体中が痺れて、その方たちの幸せに貢献したことへの喜びを感じて。このことが、僕にとってのターニングポイントになりましたね。
野口
それ以降、やる気がみなぎり始めたのでしょうか?
伊藤さん
いや、単なる「スタート」ですよね。そもそもやる気という概念が「存在しない」状態から、ひとまず「スタートラインに立った」という感じというか。全然みなぎっているわけではないが、ひとまずスタートした感じです。
その時に強く思ったのが、「仕事ってそんなに怖くないな」ということでした。 仕事ってやらなきゃいけないことはやらないとなっていうこととか、「頑張ればできるんだな」ということを知りましたね。俺も他の人みたいに、頑張れば仕事できるんだって。

伊藤さん
モチベーションがあるから仕事をするんじゃなくて、行動しているとモチベーションに繋がっていくんだなっていう原体験を積むことができたのが、このタイミングだったんだと思います。
野口
やる気がないからやらないんじゃなくて、”やってみて初めてやる気が生まれる”ということですね!
伊藤さん
仕事をする中で、「こういう状況の時にはこうやって対応すればいいんだ」とか、「わからないことがあれば、上司に聞いてもいいんだ」とか、一つひとつ学んで行きました。自分の中で、他の人より遅れている・劣っているという感覚があったので、何をするにしても自分なりの工夫をしていましたね。例えば、プレゼンも自分の言葉で伝えないと伝わらないと思って、プレゼン資料を全て自分で作ったりとか。そうすると評価されたり、結果に変化が出てきました。そうやって学びを積み重ねていったり自分なりの工夫をするようにしているうちに、多少仕事もできるようになってきたんだと思います。
野口
先ほど「やる気ゼロになった」とおっしゃっていましたが、そこから今のやる気みなぎる伊藤さんに変化された転機のようなものはあったのでしょうか?
伊藤さん
やる気が目覚め出したのは、プラスに転職してからでしたかね。

プラス株式会社に転職

伊藤さん
プラスのオーナーと出会って、話をするうちに「こういう感じで仕事をするっていいな」と素敵な会社だなと思うと同時に、憧れのような気持ちを抱くようになったんです。そしてオーナーに「一緒に仕事したいです!」と直接伝え、転職することになりました。
この時が、初めて自分で自分の人生を選んだ瞬間だったと思います。「やってみたい」という自分の意思が乗った選択というか。
そこからは「自分で選んだんだから頑張ろう」と人一倍頑張れるようになりましたね。
野口
プラスで働かれていた時は、どんな生活を送られていたのですか?
伊藤さん
会社の隣にウィークリーマンションがあったんですが、金曜日には深夜12時くらいまでバリバリ仕事をして、夜はそのマンションに泊まって。土曜日も朝は5時くらいには起きて、オフィスで仕事して…なんて毎日を過ごしていました。
野口
本当にすごいです!
伊藤さん
当時は「仕事を頑張っている俺、かっこいーー!」って思っていました。笑
きっとそうやって仕事を頑張っている人に、どこかで憧れの気持ちを抱いていたんだと思います。プラスに入ってからは、本当に仕事に打ち込んでいましたね。
野口
大きな変化ですよね。
伊藤さん
人ってどこかのタイミングからいきなり頑張ることができるようになるんじゃなくて、いろんなきっかけがあって少しずつやる気を持つことができるようになったりしていくものだと思うんです。僕自身も最終的には600人くらいが働いているプラスで執行役員として仕事をしていましたけど、はじめは本当に下っ端からのスタートでしたからね。
プラスに転職したのも大きかったですが、僕のもう一つ転機となったのが、グロービス経営大学院への進学でした。

グロービス経営大学院への入学

伊藤さん
プラスで物流の損益管理などの仕事をしている中で、上司と自分の仕事スピードに圧倒的な差があることが壁になり始めて。「これじゃあいつまでたっても追いつけない!!」と思っていた時に紹介されて通い始めたのがグロービス経営大学院だったんです。

https://mba.globis.ac.jp/

野口
大学院では、どのようなことを学ばれたんですか?
伊藤さん
グロービスでは「クリティカルシンキング」というものを学んだんですが、「こんな考え方があるんだったら早く言ってよ!」となりましたね。

頭がいい人ってこんなふうに考えているんだ、「考える」ってこういうことなのかってはじめて知りました。僕って東京大学を卒業しているっていうだけで頭が良いと見なされがちだったんですが、この時僕が持っていたのって「暗記力」だったんですね。だから、考える力がなかったんです。グロービスで学ぶ中ではじめて「考えるってこうやってやるんだ」ということを知りましたね。


野口
とっても面白そうです…!
伊藤さん
ただ、そういった思考力がすぐに身につくわけではないので、とにかく応用を積み重ねて積み重ねて…という感じでした。僕にとって人生の大きな目覚めのひとつですね。人生で一番勉強したのがこのタイミングでした。
野口
そうだったんですね。
伊藤さん
ここまで、高校生の頃から今までの話をしてきましたが、自分が目覚める瞬間みたいなものをかなり苦労しながら自分で作ってきたんですね。なので、人が目覚める瞬間っていうのを作るのが大事だなと感じると同時に、今度は自分も誰かのそんな瞬間を作る人になりたいなと考えるようになって。そんな想いで、現在は武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長やLINEヤフーアカデミアの学長としての活動を通して、次世代のリーダー育成に携わっています。
野口
すごく素敵です。
最後に、今回は伊藤さん自身の高校時代からのお話を伺ってきましたが、実際に今の高校生に向けて、こんなことをやっておいた方がいいよというアドバイスなどはありますか?
伊藤さん
「人とたくさん話す」ということは、やはりすごく大切だと思うんですよね。くだらないことから真面目なことまで、とにかく人と話すのはやっておくのが良いのじゃないかと思います。
野口
具体的にどんな話をするのがいいなどはありますか?
伊藤さん
声に出して言ってみることで初めて自分の思考って構造化されるんですよね。だからこそ、例えば普段の友達との会話の中で、今の国際情勢の話とかを「どうしてああいうことが起こっているんだろう?」なんて気軽に話すことができたら、そういった会話の中の「どうして」から、勉強してみようかなというやる気が生まれることもあると思うんです。
野口
声に出してみることってとても大切ですよね。
伊藤さん
それからもう一つは、「本と友達になること」です。
学校の勉強って楽しいと感じるものもあれば、そうじゃないものもあると思います。はじめはYouTubeなどを入り口にしてもいいと思うんですが、YouTubeだとなかなか興味が深まらないんですね。
野口
本にしかない魅力には、どのようなことがあげられるんですか?
伊藤さん
自分のペースで深めることができたり、情報が不完全だからこそ自分でその部分を調べることができるのが本の魅力じゃないですかね。そういう形で面白いと思った分野があれば、その分野の本を読むことはやっておくといいんじゃないかなと思います。
野口
私自身、大学生になってからようやく本の魅力に気づくことができたので、高校生の時に伊藤さんのこのアドバイスに出会いたかったです。
ちなみにですが、伊藤さんのバイブル本のようなものはありますか?
伊藤さん
LINEヤフーの同僚の安宅和人さんが書いている「シン・ニホン」ですね。
あの本を、僕は全日本人が読むべきだと思っています。日本がどうあるべきかをあそこまで書き切っている本はないんじゃないかなと。高校生には難しいかもしれないけれど、あれを大学生くらいまでに読めることを目標にしておけばいいんじゃないかと思います。
伊藤さん
高校生にもう一つ伝えたいことがあります。それは「旅をしろ」ということです。
つまり、「自分の世界を広げるとともに、深めること」ですね。色々な地域で色々なものを見て、そこで得た感動とかをそのまま受け取るっていう経験を積むのは非常にいいことなんじゃないかと思います。あとは自分の好きにやればいいと思います。
野口
伊藤さんがこれまでに訪れてみて良かったところはありましたか?
伊藤さん
最近行ったインドです。人生観が変わりましたね。
まず人が多い!人がどんどん増えているんだけど、インフラが整備されていないから、いわゆる「カオス」なんですよね。ただ、すごくエネルギーに満ちていて、成長力を肌身で感じることができました。
野口
私も昨年インドに行ったのですが、一人ひとりのエネルギーが感じられる場所だなと感じました。
伊藤さん
そうですね。国外じゃなくても、日本にもいろんなところがあるので、遠くじゃなくてもいいんです。日常と異なる経験をすることが、大切だと思いますね。
野口
そうですね。私もまた旅に行きたくなりました!
最後になりましたが、伊藤さん自身高校時代なかなかやる気が出ずに悩まれたり、楽しいと思うことができない時期もあったとおっしゃっていましたが、実際にそんな悩みを抱えている高校生に向けて、何かエールをいただけないでしょうか?
伊藤さん
「やる気がない」「生きづらい」と感じている状態は、僕は全然良いと思います。良いと思うけど、いつか抜け出すといいよね。
抜け出すためには、さっき言った話す・本・旅の3つなんですよ。どれも、外との対話なんですよね。
野口
「外との対話」…たしかに!
伊藤さん
モチベーションが沸かないから行動できないんじゃなくて、行動していないからモチベーションが沸かないんです。だから、まずやってみる。最初はまやかしかもしれないけど、だんだん本物になってくるものなんです。どこかでガラリと変わるものではなくて、まだら模様みたいに少しずつ変わってくるものなので、行動する習慣を作っていくことが大切なんだと思います。
野口
「行動する習慣を作る」これって高校生だけじゃなくて、誰にでも当てはまりますよね。きっと高校生にも深く届くメッセージを今回お伺いできましたし、私も今回インタビューをさせていただく中で、とても刺激をいただきました、本日は貴重なお時間を本当にありがとうございました。

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